第35章 潜入
「だって。……普段は私のこと置いてさっさと1人で先行っちゃうのに、急にこういうコトされたからちょっとびっくりしただけ……」
「ま、状況に応じてね。」
奇しくも全くその通り。リネルはイルミに手を引かれ 屋敷の中へ足を踏み入れた。
◆
大きなエントランスをくぐり、屋敷の中に入ると そこは巨大なホールになっており まさに豪華絢爛と形容するに相応しい華やかな場であった。
輝くシャンデリアに、有名画家の絵画やクリスフォード家の代々の当主達の肖像画、その他数多の調度品のどれもが皆 一寸の狂いもないかの如く 美しく飾られている。
パーティー会場らしく、オープン型の大きなキッチンには色とりどりのカクテルや、フィンガーフードにスイーツが並べられており 大勢の招待客の間をボーイが器用にくぐり抜けながら 来場者に給仕を行なっていた。
2人はボーイに手渡されたシャンパンを片手に、ホール内を進んだ。
途中 ゾルディック家の顧客らしい老夫婦に挨拶をされ、 リネルはゾルディック家長男の嫁として紹介されることになった。第三者に紹介されるのは実質初めてで 少し複雑な心持ちではあった。イルミが意外にも 外交に対して当たり障りなく対応していた事には少々驚いた。
その後、2人は自然に壁際の方へ移動する。
並んで 会場前方のステージと吊るされた巨大スクリーンから発せられる クリスフォード氏の挨拶を聞きながら、小声で話し合っていた。
「この挨拶が終わればその後はしばらく部屋に戻ると思うから、オレは行くよ。何かあったら連絡する」
「うん、わかった。……例の能力者が雇われてるかもって話、どうなのかな?」
「今の所はそれらしいのはいなそうだけどね」
「……円で探る?」
「そこまではいいかな。これだけ人がいると目立つコトは避けたいし。もしも出てくるようなら臨機応変に対処する」
「わかった。気をつけてね」
リネルは手元のグラスを下ろし、目線をイルミに投げた。イルミは黒い瞳だけをリネルに向け まるで子供に注意をするように言った。
「リネルこそ。くれぐれも飲みすぎたり変なヤツについて行ったりしないでね」
「仕事なんだしするわけないでしょ」
その後、イルミは会場から姿を消した。