第35章 潜入
殆どの男女のペアは腕を組んだり、当たり前に腰を抱かれたりと 仲良さそうに密着し合っているし この場ではそれがごく自然なのだ。
イルミがこの度の依頼を持ってきた理由を完全に理解しつつ、なるべくそれらしく見えるようにと リネルは固まった顔に強制的に笑顔を貼り付けた。
「あのさ」
「な、なに?」
「緊張するか気配を隠すか、どっちかにしてくれる?」
「えっ」
「さっきから動揺してるクセに 無理矢理気配を溶け込ませてるカンジだけは完璧で、気持ち悪いんだけど」
「…ごめん…」
暗殺の基本であるとゼノに教えられた【気配を周りに同調させておく】は、半ば無意識に行ってはいたが そう指摘をされるとイルミの言う事は最もでリネルは深く肩を落とした。
イルミは一旦歩みを止め、リネルから手を離し距離を取る。リネルを見下ろす視線と雰囲気は 相変わらず淡々としていた。
「オレはパーティーについてきてって言ったよね。当たり前じゃないの?こういうの。これじゃあ逆効果だよね、全然自然じゃないし」
「そう、だけど……」
「気配をならすのはそこそこでいい。普通にしてオレの隣に立ってる事を考えてよ」
「ごめん……」
心情を素直に話すのは流石に勇気がいる。謝るしか出来ない自分が虚しくなり、リネルは下を向いた。
しばし訪れる無言の中で リネルはふと思い立つ。伺いを立てるべく顔を上げた。
「……手を、繋いでもいい?」
「手?」
「なんかその、私ハイソな育ちと真逆だしいかにも みたいなカンジは慣れなくて……それじゃあダメかな?」
「いいけど」
まるで握手でもするように、イルミは片手を差し出してくる。リネルはそこへ そっと自分の手を重ねた。
これならそこまで密着はせずに この場で大きく浮くこともなく、自然に寄り添う事が出来るだろう。リネルを見下ろし、イルミは探る目を向けた。
「何をそんなに緊張してたのか意味がわかんないんだけど」
「え?!」
「だってそうだろ。今更。知らぬ仲でもないワケだし」
イルミの指摘は最もとも言える。リネルは拗ねる顔をして言った。