第34章 支度
ここでこちらも褒め言葉の一つでもかければ、パーティー潜入に相応しくそれなりにいい雰囲気にもなろうかと思い、リネルは再びイルミを見上げた。
スタイルの良さを強調するような 深い黒色のスーツの中には揃いのベストを着込み、グレイのネクタイを締めたイルミの姿は、リネルから見ても悔しい程にさまになっている。本日は目立たぬように仕事を終えると言っただけに、人目を引く長い黒髪を隠すよう 後ろに括った姿が新鮮であった。
ブラックとシルバーでのみ構成されるシンプルなラペンピンだけが キラリと華やかな光りを放つ。
「…………。」
イルミの感想を真似る訳ではないが いつぞやの白いタキシードよりは 今日の格好の方が素直に似合うように思う。的確な褒め言葉を探しながら、イルミから少し視線を外した。
「…えっと…」
「何照れてるの。これから仕事に行くんだよ、わかってる?」
「わかってるよ。てゆーか別に照れてないし!」
言いたいことが素直に言えない様は相変わらずだと自分でも思いつつ、リネルは逃げるよう 再び大きな化粧台の前に向かった。
そこに用意してある婚約指輪を箱から取り出し 左手の薬指につけた。大きなダイヤモンドがダークカラーのドレスにはよく映え 輝きを増すように見える。イルミが声をかけてくる。
「それ、付けてくの?」
「うん こういう場では付けるのがスタンダードらしい。せっかくだからしまってばかりいないで見せびらかさないと」
「結構イイ値段したしね。それ」
「気になる。結局いくらだったの?」
「秘密」
「ケチ」
「お二人共、こちらを向いて下さい」