第34章 支度
「イルミ様はリネル様の事をよくわかっていらっしゃいますね」
「え…?!…そうでしょうか…」
「ええ。お二人はとてもお似合いだと思いますし。ヘアスタイルはドレスに合わせてスッキリしたアップにさせていただこうと思いますがいかがでしょう?」
「はい、お任せします」
丁寧に髪をまとめ上げてゆく 鏡の中の使用人の指先を見ながら、リネルは再び 頭の中でこれからの仕事についてを考えていた。
支度がほぼ終わる頃、ドアを開ける音と共に イルミが部屋に入ってくる。
「準備終わった?」
「ん、もう終わる」
リネルは手持ちのアクセサリーの中から ドレスに合わせた大振りのゴールドのイヤリングをつけながら言った。
使用人はにこやかにイルミに話し掛けた。
「まあ!イルミ様も大変よくお似合いでいらっしゃいますね」
「ちょっと仕事しづらいけどね」
「リネル様もお支度が終わりました。いかがです?おキレイでしょう」
その声を合図にするように、リネルは椅子から立ち上がった。わざとらしくイルミの目の前まで足を進め、じっと睨むように見上げてみせ ふと眉を上げる。
「……あれ?今日はいつもより縮んでない?」
「オレは普通。リネルが大きい」
そういえば本日はドレスに合わせて高いヒールを履いている。普段よりも小さく見えるイルミに対し、少しだけ勝ち誇った気持ちになった。当たり前だが元々の身長差が埋まるが故に 少し顔の位置が近くなる。
リネルの方も今夜は 華やかなメイクとアップヘアのおかげで かなり大人びて迫力を増している。イルミはそれをしげしげと見下ろして言った。
「へぇ、化けるね。白もいいけどこういう方が似合ってる」
「えっ」
まさか褒めるような台詞を言うとは思っていなかった。
白とは例の新婚旅行でのウエディングドレス姿かと懐かしく思い出した。なんだかんだ適当に見えつつも 今日のドレスはそれなりに自分の好みでリネルのために選んでくれたのかと思うと 急に照れ臭くなる。リネルは視線を下に外した。
「それは、……褒めてくれてるってコト?」
「褒め言葉以外にどう聞こえたの?」
「……ありがと。」
リネルは小声で礼を述べた。