第34章 支度
そして翌日。クリスフォード主催のパーティーへの潜入の日となる。
夕刻前、リネルは女性使用人に支度を手伝ってもらいながら 本日の仕事について頭の中で確認をしていた。
今夜はイルミの仕事への付き添いがメイン。邪魔せず何もせず、基本的には終わるのを待つだけだ。そのパーティーの場には 確定情報ではないけれど JLAという腕利き能力者が雇われてるかもしれない。でも指示がない以上は一切余計な事はしない。
幻影旅団潜入の可能性もあるが、彼等の目的はクリスフォードが持つ魔獣の剥製であり つまりおそらくは、幻影旅団はイルミの邪魔はしないはずと言える。
クロロのやり方は何と無くはわかるし、下手にパーティーをぶち壊す理由もない。来るならおそらくは少数精鋭だろうか。
彼等の出方次第な部分はあるが 原則はイルミの指示をメインに、臨機応変に何食わぬ顔で対応すれば良い。
これからパーティーに向かうにはあまりにも、リネルの顔つきは固い。後ろから使用人が声をかけてくる。
「どうかなさいました?」
「いえ。……ええと、こんな事までお手伝い頂けるんだなぁと思いまして」
「恐れ入ります。ご命令とあれば何でもやらせていただきます」
目の前の広い鏡の中には 例のドレスを着たリネルと、リネルの髪を梳かしながら器用にカーラーを巻き付けていく使用人の姿が写っていた。
使用人は鏡の中のリネルに向かい、緊張を和らげるような優しい声色で話してくれる。
「素敵なドレスですね」
「そうですか?個人的にはもうちょっと明るい色の方が好きですけどね」
素っ気なく言うリネルの襟足の髪を、使用人はくるりと器用にカーラーに巻き込んでゆく。そこからは白いうなじが覗き やや深めにカットされたドレスのバックスタイルも綺麗に映えている。背中までの柔らかいラインをすべやかに演出してくれる。
「ご自身で思っておられるより、お似合いだと思いますよ」
「……ありがとうございます」
「イルミ様のお見立てですか?」
「まぁそうとも言えますけど……でも正しく言えば依頼の一部って言うべきかな」
冷めた態度のままのリネルに対し、使用人の方が何故か満足気な表情だった。