第33章 ドレス選び
堪忍したのか、イルミは再びマネキンへと視線を戻す。次の瞬間には1着のドレスを指差していた。
「これでいいんじゃない?」
「……早。もうちょっと真面目に選んでよ」
「だから選んだよ」
「…………」
一応は候補が決まったらしい雰囲気を受けて、店員が横から声をかけてくる。
「是非試着なさってみて下さい!こちらに並ぶ商品は全て新作なんですよ。有名デザイナーのルーナ・アルティメイトが手掛ける自信作でございます。」
「……はい。じゃあ、試着だけ……」
店員に返事を返し、とりあえずの試着を試みる事になった。
今回はゆっくり選ぶ時間もなければ、別に夫婦揃ってデート同然のパーティー参加と言う訳でもない。ましてや元々はイルミの依頼であるし、本人がコレというならそれでいいかと投げやりな気持ちになってくる。
「どうぞ、ごゆっくり」
両手でドレスを手渡された。
艶のある肌触りの良い布地で、深いボルドーカラーのそのドレスは タイトなシルエットにやや強めのスリットがきいた 落ち着いた雰囲気のものだった。アシンメトリーに使われる裾のドレープからは小技の効く華やかさもある。
リネルの年齢には少々大人っぽいデザインではあるが、着てみると上品な中に色気も相まって 洗練された淑女を演出してくれる。
試着を終えたリネルは試着室のカーテンを開ける。
やや気恥ずかしい気持ちはあれど むすんと仏頂面を決め込んだ。店員が明るい声を出す。
「わぁとってもお似合いです!スタイルがよろしいのでラインが美しく出て大変お綺麗ですよ」
「うん、まあまあ。リネル それにしなよ」
「……じゃあこれにします。あ、領収書は必須でお願いします!」
こうして、入店からたった5分でドレスは無事に決定した。