第33章 ドレス選び
「いいよ、わかった。買いに行こう」
「え?これから?!もう夜になるよ?!」
「なきゃ困るだろ。この時間ならギリギリ間に合うだろうし、無理なら何とか手配させるようにしよう」
無理やりな手段を行使する選択肢はさすがは名門暗殺一家と言うべきなのか。部屋に散乱した服はそのままの状態にし、リネルはゾルディック家の私用車に連れ込まれた。
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最短ルートで向かう先は、以前に婚約指輪を選んだショッピング街だった。私用車から降りるなり、前回よりもさらに早足で使用人が示唆した目的の店へと向かうイルミに、リネルは半ば走るようについて行った。
厚いスライド式のガラス扉が店員によって開けられた。
とりどりの洒落たドレスが並ぶ店へ入るとふんわり上品な香りが漂ってくる。時間も遅いためか他に客は誰もいないようだ。
リネルは眩しい店内をくるりと見渡した。華やかなメイクをした女性店員が笑顔で近づいてくる。
「いらっしゃいませ」
「早く選んで」
「えっ……」
店員には何の対応も示さずに早口でそう言うイルミをちらりとだけ一瞥した。リネルは数歩、店内に足を進めた。
きっと、明日のパーティーでスタンダードとなるのは丈の長めなロングドレスの方だろう。しかしこうも品数が多いとどういったものを選べばよいかを迷ってしまう。
リネルは控え目に左右を目配せし、一番近いマネキン達が並べられる箇所へ近付いた。そこには五体、別々のドレスを纏い艶やかな立ち姿を決める人形がある。
「……ねえ、イルミ」
「なに」
「イルミってどういうのが好き?」
「どういうって?」
「ほら、カワイイ感じとかキレイ目とかさ……好みないの?」
「好み、か」
イルミはふと顎に片手を添えている。視線の先にはかのマネキン達だ。そして見極めるよう、リネルへ視線を滑らせてくる。
何と答えてくれるのか 興味はある所だ。
「おかしくなければ何でもいいよ。とにかく早くしてくれる?」
「……選んでよ。これは一応イルミの依頼の一部なんだし」
「え?リネルの着たいのでいいよ」
「いいから!選んで!!」
リネルの口調はきつい。上目遣いにイルミをにらんだ。