第33章 ドレス選び
自室に戻るなりリネルはクローゼットへ直行した。
ゼノの言葉を反芻しながら、使えそうなより良い衣装はないものかと手持ちの物をあれこれひっくり返していた。
「リネル、うるさいんだけど」
明日の仕事に備えてなのか、本日は既に帰宅済みであったイルミが隣室からやって来た。リネルは眉を下げて振り返った。
「イルミどうしよう……明日、何を着ていけばいいの?……」
「何をって、オレ準備しておいてって言わなかった?」
「そうなんだけど。……」
「そこの窓際にかけてあるヤツでダメなの?」
イルミが人差し指で示した先には、当初着ていく予定であったプリーツが美しいネイビーのシャツ型ワンピースがある。ちょっとしたパーティーの場なら品もあり違和感ゼロではあるが、先程ゼノから聞いた言葉によれば おそらくこれではカジュアル過ぎて浮いてしまうであろう。
リネルは困った顔をする。
「ちゃんとしたイブニングドレスみたいな正装じゃないとちょっと違うかもしれない……そんなドレスは持ってないよ〜……」
「なにそれ。今更」
「ゴメン……。でもさ、一緒に行くんだからイルミの印象にも関わるんじゃないの?連れが浮いたらイルミも目立つってことでしょ?」
「あ、そうか。それもそうだね」
自分にも関わる事柄だと理解した途端、イルミは急に身を乗り出してくる。つい、リネルは皮肉を言う。
「あっ キキョウママに借りようかな!ドレス」
「あんなに派手な格好で悪目立ちする気?」
「……冗談です。」
訪れる無言の空間を破るよう、リネルは顔を上げてイルミに問いかけた。
「ちなみにイルミは準備してるの?」
「もちろん」
「えっいつの間に?!普段全っ然家にいないくせに」
つい、驚いた声を出す。イルミは不思議そうに首を傾げた。
「使用人に準備させてる。逆にそれ以外にどうやって用意するの?」
「……普通は自分で準備するんじゃ……」
金持ちの、もといゾルディックの基準は未だによくわからなかった。ますます困った顔をするリネルへ、イルミは溜息混じりに言った。