第32章 準備
時は過ぎ、クリスフォードのパーティー前日となった。
いつもよりも早めに仕事を片付け帰宅したリネルは 、昨日同様 ゾルディック家の書庫にて 暗殺についてやたら小難しく書かれている本に目を落としていた。
リネルがこなすべき最後の依頼は イルミが提示した「クリスフォード主催のパーティーへの同行」だ。
元々暗殺についての知識など殆ど持ち合わせていない為、付け焼き刃ではあるが少しでも勉強をすべく ここ数日は仕事の後にここで時間を使っていた。
余計な事はするなと言われ 元よりそんな気は毛頭ないが、リネルにすればそこは緊張感を持つべき仕事現場となる。
結婚以来、退屈続きだったリネルにとって これは久々にやる気を得る仕事とも言え、頼まれた以上はきっちりこなそうとするのはリネルの性分でもあった。
そんな時、ふと気配が近付いた。
リネルはゆっくり顔をあげた。
「最近よく出入りしとるのう」
「ゼノおじいちゃん」
「暗殺に興味でも出てきたか?覚えて手伝ってくれると言うなら願ったりなんじゃが」
ニヤリと笑うゼノの言葉を是正すべく、リネルはほんのり苦笑いを浮かべる。
「いえ……ええと、次の仕事現場に同行する事になったので少しでも勉強出来たらいいかな、……と」
「殊勝な心掛けじゃ。我が家の嫁らしくなってきたのう」
「あは、…ありがとうございます。」
リネルの下手な笑いは深くなる。
ゼノは隣に腰を下ろしてきた。
せっかくの機会、と言わんばかりにリネルは手元の本を閉じ ゼノとの会話を始めた。
ゼノはリネルに 基本的な事はもちろん、自らの経験談やこの家の子供達の仕事の話を聞かせてくれる。