第31章 依頼3
「クリスフォード……」
「知ってる?そこ」
「うん。名前くらいは……」
「次のターゲットがここの人間なんだよね。違法すれすれの方法で色んな値打ちもの集めてるって話だけど、週末にクリスフォードが主催するパーティーに潜入するからリネルもついてきてよ」
イルミの言葉を頭の中で繰り返した。
リネルは少しだけ、首を傾げてみせる。
「……え?私が?殺るの?」
「まさか。依頼人からの大切な案件を素人に任せるワケないだろ」
イルミは補足をすべく、リネルの手元の招待状を上から抜き取ると それを見ながら説明を続ける。
「依頼人の希望でね、このパーティー内でなるべく目立たないように片付けたいんだって。だから連れがいた方が潜入自体も自然だしね」
「……なるほど」
イルミはさらに補足を追加してくれる。
「これはミルキが掴んだ噂程度なんだけど、パーティーの護衛にそこの当主が多額の金で腕利きの能力者雇ったらしくてさ」
「……多額のお金で、能力者……?」
「うん。まぁ、そいつは関係ないけど邪魔するようなら排除が必要かもしれないし。リネルがいた方が何かの役に立つかもしれないしね」
「…………」
イルミは招待状をリネルに返すと、少しだけ視線を落とす。
嗜める口調で言った。
「リネルは基本的には付いて来てくれればいいし パーティーを楽しんでいていいよ」
「……つまり、余計な事はするな、ってコト?」
「そう。オレの邪魔はしないで」
リネルは手元の封筒を見つめながら、昼間ジンに言われたヒントを思い出していた。
「そういうコトだから準備しておいて。無事に終わったらきちんと報酬は払うから」
イルミはくるりと踵を返す。微かに顎先を上げ、仕事着の襟元を指先で緩めながら 自室へ姿を消してしまった。