第30章 依頼2
ヒソカと別れてからリネルは クロロよりの電話を折り返した。
あの家の中で聞かれるとマズイかもしれない話は外でする、これは最近の基本であった。コール音数回の後、電話の先からクロロの声がした。
「……あ、もしもし?」
「リネル、久しぶりだな」
落ち着いていて、安定感のあるクロロの声を携帯電話越しに聞いているだけで 最後に会った日を思い出してしまった。
酒の席でからかわれた事実。あの時のクロロには計り知れない程ドキドキ動揺をさせられた。リネルにすれば忘れられない大事件となっている。
一方のクロロはそんな事は既に忘れてしまったのか、普段通りの様子を一切崩しはしなかった。
「今欲しい物があるんだが、それについてお前に調べて欲しい事がある」
「私に?」
リネルは電話を握り直した。
過去に数回、クロロからもこのような協力依頼はもらった事がある。ヒソカといい本日は珍しくもそういった相談が重なる日だと不思議に思いつつ、クロロに確認を込めて聞く。
「クロロの所にはシャルがいるでしょ。シャルに割れない情報を私が探せるかな……」
「“お前でないと”、ダメなのかもしれないぞ」
「……それは立場の意味で?」
「無論だ。」
意味深な言い回しをするクロロは、詳細はメールにて連絡すると言った。
「なら最初からメールでくれたらいいのに」
「たまには会話くらいいいだろう。……元気なさそうだな?」
「…………」
「痴話喧嘩でもしてるのか」
「してないし」
ヒソカに続き、クロロもえらく鋭いものだ。
声色ひとつでそれを言い当てられると さすがに溜息がこぼれてしまう。
停滞気味な気分を隠すべくリネルは咳払いをする。クロロに毅然として言った。
「言っておくけど有料だよ。ちゃんと調べがついて情報提示出来たらそれ相応の金額を請求するから」
「なんだと?冷たい事を言うじゃないか」
「当たり前。これは取引なんだから」
「随分キツい女になったな。……その辺り、イルミに似てきたんじゃないのか?」
「うるさい!」
これでは半ば八つ当たりだ。リネルはクロロとの電話をぷつりと切った。