第29章 依頼
一瞬だけ、ヒソカが放った好戦的オーラを感じ 浮遊するような感覚がぞくりと背筋に走った。先程見たヒソカの返り血を思い出し、リネルは口元をにこりとさせる。
「ヒソカも欲求不満なんだね」
「そう。だからボクはキミの環境が心底羨ましいよ」
「どういう事?」
「だってイルミにキルアに……ヤり放題じゃないか」
「私にはそういう趣味はない」
「勿体無いねぇ」
そんな時リネルの携帯が音を立てる。リネルは眉を下げてぽつんと言った。
「あ、報告まだだったし催促かも」
「……もしかしてイルミ?盗聴器つけられてて会話傍受されてるレベル?」
「まさか。変に睨んでるけど要件ないと連絡なんか来ないよ。多分職場」
音源を手に取り画面を覗く。そこには予想外の名前があり、リネルはぽかんと口を開いた。
「……」
「出ないの?」
「…ん、」
「クロロ?」
「え?!なんでわかったの?」
「勘だよ。だだの」
「……………」
「なーんて。リネルにそんな顔させる相手はボクの知る限りクロロくらいかなぁ、と」
ぴたりと的を射るヒソカの言葉につい眉根を寄せた。とりあえず着信はその場で切った。
一通りの話は済み、ヒソカは静かに席を立つ。
「ボクから一言忠告しよう」
「忠告?なに?」
「キミが思ってる以上にイルミはとっても過保護だと思うから……あまりオイタはしない方がいい」
「ヒソカに言われなくてもわかってるよ」
ツンと顔をそらせるリネルへ、ヒソカは挑発的な笑みを投げた。そこには冴えるオーラも混ざる。
「でも、キミが退屈なただのガラクタになる前にはボクがちゃんと直してあげるから。困ったら遊びにおいで」
「だからそう言うのヤバいんだって。睨まれてるから」
「ボクよりイルミをとるっていうの?」
「私の立場考えてよ。当たり前でしょ」
「残念。じゃあ……このままつまらなく壊れちゃうんだね リネルは」
「忠告したり挑発したり、さっきから言ってることが矛盾してるよヒソカ」
ヒソカは真っ直ぐリネルを見る。探り合いを含むリネルの瞳には、きらりと洞察の念がある。ヒソカは瞳をにこりとさせる。
「いいねェ♡やっぱりキミにはそういう雰囲気の方が似合う」
ヒソカはそのまま、あっさりその場を後にした。