第3章 決断
「ジョーダン。気にしないでいいよ」
「よくないし。マナー違反じゃない?なんでそういう事するかな」
「なんとなく」
「ふざけないで」
「別にふざけてないけど?」
出るのは溜息ばかりだ。単純な悪戯を追求したところでなにがどうなる訳もないのは明白、リネルはすぐに踵を返す。
「…もういい。じゃあねサヨナラ」
「怒ったの?」
「別に。案外面倒な男だなって思っただけ」
リネルはイルミに背を向け、寂れた部屋を入り口まで歩み進める。後ろからは尚もイルミの声が続いていた。
「待ってよリネル」
「なに」
「何か今日怒ってる?キスマークつけたくらいそんなに嫌だった?」
「別に怒ってないよ」
「怒りたいのはオレなんだけど。ターゲット取られて無駄足踏んだし」
「それは私のせいじゃないでしょ」
この感情に無理やりの理由を付けるとしたら。
“なんとなく会いたくなかったから無理して仕事を片付けて来たのに、まさか会ってしまったから。”
自分自身認めたくない消化不良の台詞をはっきり言うことが出来るはずもなく。もはや無理やり返答を終わらせ、再び足を進めてゆく。それでも尚、イルミの声は冷静に続いてゆく。
「オレもリネルに言いたいことがあるんだ」
「…なによ。私忙しいから簡潔にして」
「結婚して。オレと」
後ろから聞こえた台詞にリネルは目を見開いた。一体何を言っているのかと振り返れば、いつの間にかイルミはリネルの真後ろまで距離を詰め 真っ直ぐこちらを見下ろしていた。間近で見るとイルミはそれなりの迫力がある、負けぬよう眉間を詰めて口を開いた。
「何を言い出すの?」
「簡潔に。一言で。オレと結婚して」
リネルは大きな溜息をついて見せる。眉間の皺は深くなるばかりだ。
「本気で言ってるの?もしプロポーズのつもりなら死体の隣で言うってどういう神経してるの?」
「お互い忙しいだろ。次いつ会うかもまた会う機会があるかもわからないし 言える時に言った方がいいかなって」
展開が急であり謎過ぎる。リネルは当然の疑問を投げた。