第3章 決断
「やっぱり死んでる。やってくれたね」
「ゾルディックにも暗殺依頼があったの?相当悪い事してたんだね彼。対して強くもなかったけど」
「これじゃあオレはただの無駄足だよ」
「ならイルミが殺した事にしたら?私はこの人が死ねばそれでいいから」
「それはルール違反だから出来ない」
向けられるのは重苦しい黒い瞳だ。イルミの雰囲気は穏やかであるし言及されている訳でもないのに、どうしてかピリピリしてしまう。
「オレに殺しの依頼出してくれればよかったのに」
「それこそルール違反じゃない?二重請求だよ」
「違うよ。そしたら家族会議にかけて正式にリネルの依頼を選んで動けたから」
「へえ私の方の依頼を受けてくれるんだ。あ、紹介料でイルミにマージン入るとか?」
「報酬の算出方法は秘密。ハンター協会の肩書きはでかいから依頼の信憑性高いしね」
「ふーん。協会様々だね」
自分の声にはあからさまに棘がある。イルミは首を傾げターゲットの首元を見つめる。穴の空いた肉の隙間からは 未だにどす黒い血が流れている。
「へぇ 殺気は一瞬で傷の深さもなかなかだね。やれば出来るね、リネル暗殺に向いてるかもよ」
「興味ない。そんなの」
「でも角度が悪い。もっと水平保たないと血が飛びやすい だから服汚れるんだよ」
「……そ、ご教授どうも」
イルミはその場から立ち上がる。夜に溶込み去ってしまえばいいものを、イルミはリネルを真っ直ぐに見下ろしてくる。
「どうして今回は依頼出さなかったの?」
「どうしてって…依頼は依頼主が決めるものでしょ」
「そうだけど、単純になんでかなって」
「…依頼料高すぎだし。私だって無限にお金あるわけじゃないんだから」
「価格は適正だと思うけどな」
落とされたままの視線が痛い。リネルは小さな咳払いを噛ませ 話題を変えるべく話しかけた。
「イルミに言いたいことがあったんだけど」
「なに?」
リネルは目元をきつくする。明らかにイルミを睨みつけながら言った。
「この前私にキスマーク付けたでしょ」
「なにそれ。オレじゃないよ」
「ふざけないで。しらばっくれる気?」
イルミのきょとりとした表情が実に不愉快だった。更にはとぼけた態度のまま両手をひらりとあげ、軽い返事を返してくる。