第29章 依頼
リネルは思い切りむすんとし 上目遣いにヒソカを睨んだ。
しかし反論が出来ないのは 自分でもそれを認めているからで、言い訳のしようもなかった。
くるんと華麗に回されるヒソカの指の間には いつの間にかトランプのジョーカーがある。その無駄のない動作にすら、不覚にも真っ直ぐ魅入ってしまう。
「イルミの側は欲求不満なんだろ?」
「…………かもね」
リネルは頬杖をつき、大きな溜息を落とした。
差し出されるカードに触れると、そこに乗る微かなヒソカの念を感じ 指先がじんと熱くなった。
「おや、素直だね。まだ新婚サンなのに早すぎやしないかい」
「だよね〜……」
リネルは自嘲気味にそう言う。届けられたコーヒーを口に含んだ。
「ヒソカ程スリルとか求めてるわけじゃないけど、抑制されたら丸くなるしかないし。ホントに今の私は自分でもつまらないと思う」
「イルミも過保護だからね。まぁ、愛されてるってコトじゃないか」
「愛なんかじゃない。あれはただの支配欲だよ」
自問自答は何度もしてきたし答えは明確だ。そう言いたげに早口で告げるリネルへ、ヒソカは確信をつくべく はっきりと言った。
「らしくないね。大人しく言いなりになるなんて」
「まあね。でも私だって命、というより自由が惜しいし。無干渉なようで目を光らせてるって言うか、なんかいちいち揉めるのも面倒になっちゃって」
「クク、溜まりに溜まってるみたいだね」
「だからヒソカの依頼っていうのがなんなのかわからないけど あんまり派手な事は出来ないよ」
「あ、そうだったね。大丈夫、リネルにしたら簡単な仕事かもしれないよ」
ヒソカはふと一枚の紙切れを取り出してくる。それをリネルの前に差し出した。
「なに?」
「この人、割り出せない?面白い念を使うらしくて会ってみたいんだけど なかなか所在を掴めなくて……」
ヒソカの表情を盗み見ると、にんやりにこやかで愉しげだ。それを羨ましく思いながら走り書き程度に書かれたメモを拝読する。
「わかった、やってみる。結果は割れたら連絡するね」
「よろしく頼むよ」