第26章 結婚挙式
リネルは大きく深呼吸をした。
「はああ〜!とりあえず無事に終わったねー 全部!」
「一時はどうなる事かと思ったけどね」
「ホント。お疲れ様 イルミ」
「リネルもね」
他愛ない会話をしていると、遠くに光る雷鳴が見えた。風もいよいよ湿っぽくなって来たし本格的に雨が降り出しそうだ。
リネルはちらりとだけ、隣のイルミの横顔を盗み見た。
「…………」
改めて、花嫁として、新郎として。
そんな立場から相手を見た事も無ければ、今後も見る機会は無いかもしれない。
白い衣装に身を包む今この瞬間だけは バカンスの夢世界に浸るのも許されるだろうか。
リネルは斜め下に視線をそらせた。
「最後に、…親睦を深めようよ」
「なに?」
「キスして。誓いの」
イルミは横目を向けてくる。
「それ、さっきしたよ」
「…もう一回」
「どうして?」
「…だから 親睦を深める意味で…」
別に本当の意味での愛あるキスが欲しい訳じゃなかった。これは下手な理由をつけてのリネルなりの甘えと、今後の願掛けみたいなものだ。
「いいよ。しようか」
こうもあっさり答えを返されたのは少し意外で、リネルは素早く顔を上げイルミを見上げた。
不意に肩を抱かれ、俄かに顔を寄せられた。
イルミの小さな顔がはっきり影を落としてくる。
「……」
「で、リネルはオレに何を誓ってくれるの?」
「イルミは…?!」
「家族としてリネルの為に 出来る限りの事はするよ」
「出来る、限り?…」
「うん。」
取りようによってはえらく振れ幅のある言葉だが ここでは自然と嬉しくなった。
それを伝えようとしたところで、つい口ごもってしまう。
これはリネルの性分とも言えるが 自分の感情をありのままに伝える事も今後は必要になるだろう。
やはりこのキスは概ね願掛けだ。
リネルはふんわり、イルミに笑みを返した。
「じゃあ私は、……イルミの側ではもう少し素直になる努力をする事を誓う」
「それはいい心掛けだね」
「ありがとね。結婚式に付き合ってくれて」
「一応命令でもあったしね。でもおかげでリネルの貴重な姿も見れたし」
「お互いに、ね」
なんとか持ちこたえた曇り空の下で。
触れるだけのキスをした。