第26章 結婚挙式
「……………………っ、」
「緊張しすぎ」
「え」
「例えば今、野盗とか乱入したらちゃんと反応出来るの?」
「……出来るよ 舐めないで。……てゆーかこのタイミングで誰が何目的で攻撃してくるの!?」
花嫁を前にした時に出るであろう台詞のカケラもないイルミに呆れつつ、自然と笑顔を取り戻した。リネルは、顔を上げて改めてイルミを見上げた。
こんなにきちんと正装をしているイルミを見るのは当然初めてだった。上背がありスラリとした体型にタキシードはとてもよく似合っているし 黒髪とのコントラストが真っ白い衣装を際立たせていた。ネクタイだけは淡いシルバー調で、胸元の花と相まって優しい雰囲気がある。
ただ、全身白地の洋装はどうしても見慣れない為 変な感覚になる。リネルはクスクスと笑みをこぼした。
「白い服を着るイルミ 初めて見た」
「リネルは、時々は白着てたっけ?」
「いいね 素敵だよ。正直ちょっと……違和感あるけど」
「この仕事してる以上白が似合うようじゃなんか違うし、褒め言葉ってコトで」
いつの間にか緊張は解けていた。
リネルは自然とイルミの隣に並び、そのまま2人きりでの挙式を上げる事になった。
無事に挙式が終わった後。
2人は崖に建てられた展望台の上にいた。
通常だとここで写真撮影やらブーケトスやらするのが常だと聞くが、今更写真を撮り漁るテンションでもなかった。記念に一枚あれば十分と 早々に写真撮影を終えて残り時間をただ海を眺めて過ごす事になる。
リネルの手元には無事に入手した “誓いの貝殻”がある。
それを両手で抱えながら言った。
「貝殻って言うから貝の形してるのかと思ってたけど……これはどう見てもお人形だよね」
「確かにね」
「でも一応手に貝が付いてるから貝殻なのかな」
「かもね」
それは対になるウェルカムドールのようなクマの人形だった。
アイボリー調の優しい色合いをしていて、目にも愛くるしいのだが 要所には不似合いな程 値の張る装飾品が見て取れる。
毛並みは魔獣か何かの物なのか 明らかに一般的ではないし、輝く丸い瞳にはブルーダイヤモンドが使われている。双方の手に付けられているメインの貝殻だって 相当の値打ちものであろう。
貝殻2つを合わせると、それはピタリと重なるようだった。