第26章 結婚挙式
「素敵な指輪をされていますね」
「あ、ありがとうございます……」
「先程はなんだか揉めていたようにお見受けしましたが。男性は恥ずかしがるものですよ。こんなに可愛らしい花嫁さんなんですからきっとお喜びになります」
「……だったらいいんですけどね……」
クスクスと笑う女性スタッフの発言の通りには きっとなりないとは思いつつも、まるで願いを込めるが如く 左手をきゅっと握り締めた。
ふと、外で雷の音がした。
かろうじて雨は降っていないが これからどんどん荒れてきそうな予感だ、スタッフが眉を下げて言う。
「お天気だけが少し残念ですね。」
「……実はこの結婚には色々と裏事情もありまして。そういう意味では少し不穏さがあるくらいがお似合いなのかもしれません」
ふふ、と1人笑顔を見せるリネルへ スタッフがブーケを持ってきてくれる。大きな白百合が縦に束ねられたキャスケード型のそれは 色味の主張が少ない分、花本来の瑞々しさが感じられる。
リネルはブーケを受け取った。
「参りましょうか」
「…………はい」
ドキドキするのに、頭の中には一本の芯が通るようで ひどく落ち着いてもいる。こんなにも不思議な感覚は初めてだった。
白い柱に支えられるチャペルまで来る。一直線に敷かれているのはビロード地のバージンロードだった。
ドレスの裾を践まぬよう気をつけながらベール越しのふわんと霞む視界で祭壇の方を見れば、すでに白いタキシードを着込んだイルミの姿が見えた。
緊張感を前面に出すのは癪なので 取り繕った表情を固め、一歩づつ歩み寄った。長いトレーンとベールが静かに後ろについて来る。
いざ、イルミの真正面に立つと 顔を上げるのが恥ずかしかった。ちょうど視線の先に止まるのはリネルのブーケと同じ白い大輪の百合だ。イルミの胸元に留まるブートニアを見ながら、第一声はなんと声をかけるか考えていると 頭上から声が降りてくる。
「随分支度に時間かかったね」
「………他に言う事ないの?」
イルミらしい指摘だが、今日ばかりは他の言葉も聞きたいのが本当の所だ。
むすんと口を曲げ目線を向けると、指示もないままイルミは勝手に手を伸ばし 指先だけで微かにベールに触れてくる。