第26章 結婚挙式
シンプルなAラインのドレスは コサージュやフリルの飾りは華美でないにしろ、細やかなビーズがあしらわれる上品なテイストのものだった。長いトレーンには繊細なレースが使用されバックスタイルも絵になるだろう。
試着場で ビスチェ、コルセットをあてがわれてドレスアップを終えた。やや苦しいくらいの感触が 背筋をしゃんと伸ばしてくれる。
「お次はメイクアップですね。ヘアはお好みはございますか?」
しとやかに椅子を引いてくれるスタッフにより、ドレッサーまで案内された。
大きな鏡の前に座らされると、頰や瞼に スタッフは軽々とメイクを施してゆく。こそばゆいような気持ちの中 どんどん変化する自身の顔を見つめた。
普段、髪はそのまま下ろしている事が多い。ドレスのテイストに合わせてすっきりまとれられ高く結い上げられると 雰囲気もがらりと変わってくる。本当に、魔法にかけられたみたいだ。
「ヘアアクセサリーはどう致しましょうか。お花も可憐な感じが出て素敵ですが、クラウンも可愛らしいですよ!」
幾つかの飾りを当てて説明をくれるスタッフの声を聞きながら、王道なティアラを選んでみる。細やかな装飾はダイヤモンドで見事に飾られていた。
元より、遊び心の少ない仕事に勤しむ人生だ。結婚ですら成り行きと打算で決めたリネルには、道から逸れぬ真面目な印象の花嫁像の方が似合っている気がした。
パールのイヤリングとネックレス、そしていよいよ最後の仕上げだ。
頭上にふわりと、ロングベールを着けられた。長さはあるものの重さは全くなく、まるで天使の羽みたいだった。
「お支度完成でございます。とてもお綺麗ですよ!」
「……自分じゃないみたい」
表情の堅いリネルに対し 支度を手伝ってくれたスタッフの方が、何倍も嬉しそうな笑みを浮かべていた。
鏡の中の飾られた自分を見ていると左手に光る指輪も急に映えてくる気がした。女性スタッフの優しい声がする。