第25章 新婚旅行2日目
「もういいよ。あの2人から奪って帰ろう」
「ちょっ……ダメだってばそういうのは!」
「いくら親父の命令でもさすがに付き合ってられない」
「あの人達は関係ないでしょ!巻き込んで折角の思い出を潰す気?!あっちは本物の新婚さんなんだよ?!」
「それこそ関係ないよ。オレには」
「結婚式は一生に一度きりなんだからこっちの都合で台無しになんか出来ないでしょ!」
イルミの手首を両手で掴み、下から睨み付けた。イルミは一旦歩みを止める。
「じゃあ殺しや外傷はない方法で奪う。それならいい?」
「……一応聞くけど 具体的に、どういう?」
「それはもちろん企業秘密」
「ダメダメ!絶対ダメ!」
イルミが真っ当な方法での交渉をするとは到底思えなかった。話し合いは平行線を辿る。
攻防を続けた後、イルミが別軸での問いを投げ込んでくる。
「なに、もしかしてリネルもやりたかったの?結婚式」
「えっ……?!別にそういうわけじゃないけど……」
育ちや職業柄、幸せな花嫁を夢見てきたわけでは勿論ないが 女である以上そこに憧れが全くないかと言われれば そういうわけでもない。
シルバの意図は読めている。ここは素直に結婚儀式を終えて目的の品を手に入れる事が得策であると言えばそう言える。リネルは小声で応えた。
「まあ 興味ゼロかって言われたら、……多少はあると言えばあるけどね……」
「ならリネル一人でやってもらってきてよ」
「え?一人で?……一人で結婚式って……」
「うん。未亡人てことで」
「縁起でもないこと言わないで」
どんな理由を添えたらイルミに納得をしてもらえるのか、リネルは少し考えてから ここぞとばかりに口にした。
「いつか清算して欲しいと思ってたことがあるんだけど」
「なに?」
「イルミは前に私に勝手にキスマークをつけたよね」
「ああ 随分今更だけど」
「知ってた?あれって傷害罪として慰謝料請求も出来るんだよ。……指輪の分は昨日で相殺したし 今日付き合ってくれたら貸し借り全部なしって事でいいよ」
「リネルもホント大概だな。もうちょっと素直な言い方は出来ないの?」
イルミは俄かに肩を落としていた。諦めに見える態度はここでは肯定を意味するだろう。