第24章 新婚旅行1日目
イルミは小瓶をベッドに放り、視線をこちらへ戻してくる。
「リネル ひとつ言っておくけど」
自身の下でぐったりしているリネルの呼吸は 既にかなり乱れており、瞳も虚ろで曖昧だった。イルミは無理やりリネルの視線を拾うと 感情のわからぬ瞳を少し細めて見せた。
「家族になった以上、オレはリネルを絶対に殺さない」
「……え……っ」
「でも」
伸びてくるのはイルミの右手だ。
イルミはリネルの髪を掴むと、白いままの顔を寄せてくる。隠そうともせず イルミは明らかに、こちらを威圧するオーラをありありと放っている。
「殺さなくてもリネルを支配するのも痛めつけるのも容易いんだよ」
「…………」
「赤子の指を折る程度に簡単にね」
「………………っ」
「なぜ、それをしないと思う?」
身体も心も、こんなにも火照ってしまっていると言うのに。
イルミの声はどこまでも冷静で冷ややかで、絶対的力を誇示し リネルをねじ伏せる意思があることは明らかだった。
声色はいつになく、低く重く響く。
「やろうと思えばいつでもやれるから。例えば、今この瞬間にも」
「…………っ…………」
「バカじゃないならわかるよね。オレとお前は対等じゃない」
「…………っ…………はっ…………あ」
「あんまりオレの事舐めてると 許さないよ。」
殺気にも近い雰囲気を見せるイルミに対して、こめかみから冷えた汗が流れた。
新婚旅行の夜に 甘い媚薬までも携えている官能的な瞬間だと言うのに。これはリネルのハンターとしての本能なのだろうか。
危機を感じるには十分過ぎる程なのに 何故か心臓を鷲掴みにされるような妙な感覚を覚えた。
心拍数が爆発的に上がるに連れて、媚薬が身体を駆けてゆく。脳内までを支配される流れに従い リネルはイルミの胸倉を両手できつく掴んだ。
「……そんなの、絶対ごめんだよ……っ……」
「なら少しは大人しくしてよ」
きっとお互いに未消化の感情がある。
それをぶつけ合うように、欲望は乱雑に溶けて 夜更けへと繋がってゆくのだった。