第24章 新婚旅行1日目
イルミにすればキスというより、この妙薬をリネルに飲ませる事が目的なのだろう。
初めてではないにしろ、イルミとキスらしいキスをしたのは 記憶の中でもほんの数回程度だ。それは愛あるものでは決してなく、行為の中で 快楽を盛り上げるための要素でしかなかった。
そこに不満も満足もなかったが、今こうされていると違和感ばかりが沸々と湧いてくる。
リネルは思い切り、顔を歪めた。
「んっ……やだ……っ……」
「ちゃんと飲んでよ」
抵抗するリネルの口端からは、唾液と混ざる薬が伝っている。
イルミは再び顔を近付けてくる。リネルの唇を濡らす媚薬を指の腹でぬぐいながら、もう一度ベッドに押し倒してくる。
不安に目尻を下げたまま、リネルはイルミを見上げるしかなかった。
「絶対それ、おかしくなるヤツでしょ……」
「色々な耐性を強化してるし、今のリネルには効くかわからないよ」
「やだ……怖い……」
きっと逃げ場はない、イルミは見逃してはくれないだろう。
雰囲気で何となくはわかっていたが 最後の抵抗にと、リネルは思い切り顔を背けて見せた。
「じゃあ婚約指輪のお返しって事にしようか」
「……え……」
「今日はこれを大人しく飲んで」
「ちょっ……んっ……!」
少し前に作った借りの返却を建前に置き イルミはまたも目の前で、残りの液体を口に含んでゆく。
今度はより強引に リネルに深く口付けた。
先程よりも量が多い。キスの感触に酔う以前に、口内が灼けるように熱くなってゆく。
「……っ、……っ」
舌をじわじわ舐められ 何度も遊ばれている以上は うまく吐き出すことも叶わずに、喉に落ちてくる液体を少しづつ嚥下より他なかった。
リネルの喉の動きをきちんと確認した後、イルミはようやく唇を解放してくれる。
「はぁっ……は……あっ……」
目の前は、すでに涙で滲んでいた。
それは媚薬のせいなのか、奥まで届くようなキスをされたからなのかもわからなかったが 既に思考を回す余裕はなかった。
イルミは最後に瓶を傾け、自分自身で残る液体を完全に空にしてしまう。
「効くかな。オレにも」
空いた瓶の口から垂れる薬を考察するよう舌先で舐め、独り言同然にそう呟いていた。