第24章 新婚旅行1日目
「イルミさ 私なんかで本当によかったの?今更だけど……」
イルミは首を動かし、リネルを真っ直ぐに見下ろしてくる。
「わからない」
「イルミは私に何を望んでるの?」
閉じそうになる目を開き、リネルはイルミに探る瞳を向けた。
「言ったら聞ける?」
「約束は出来ない。けど、努力は出来るかも」
イルミはこちらに、自然と身体を被せてくる。
ベッドの上で押し倒されるような状況は甘美さをまとっているのに、イルミは普段と変わらず無表情のままだった。
「オレの邪魔しないで。オレの為に動いて。オレの言う事だけを何でも大人しく聞いてよ」
「……無理。それじゃあイルミの針人間と変わらないよ」
「そうかもね」
再びやってくるのは 見つめ合いながらの無言の空間だ。
クロロの時はあんなにもドキドキしたのに。こうしているだけで胸が高鳴って仕方なかったのに。不埒な記憶が頭をよぎってしまう。
思い切り、気まづそうに顔をそらすリネルの様子は 何らかの合図に見えたのか。イルミは頭を落としてくる。黒髪がはらりと、イルミの肩をすべる。
まず、本日の目的は“新婚旅行”である。親睦の意味でも身体を重ねて互いを感じ合うことは当然であり、むしろ今宵のマスト項目でもあろうか。
わかってはいても少しの罪悪感と昨日の感覚を残しておきたい念がある。リネルはイルミに両手を伸ばした。
「ちょっと待って」
「なんで?」
「ええと、……心の準備するから」
「なにそれ」
構う事なく触れてくるイルミに対し、咄嗟に枕元に置いてあったバッグを掴み 顔の前に出した。
「1分でいい! 1分だけ待って」
「やっぱり何か隠してるよね」
「別にそんなんじゃないよ。……ほら、一応新婚旅行の夜って大事だしそういう意味での心の準備で……っ」
それらしい理由を並べながら バッグを取られぬようしがみつきそこに顔を埋めた。
ふと、驚くようなイルミの声が落ちてくる。
「なにこれ」
「え?」
イルミの視線の先はリネルのバッグの中だった。そこにちらりと覗いていたのは 結婚祝いにとパリストンからもらった例の大人の玩具セットだ。
リネルは咄嗟に起き上がりそれを隠そうとする。
が、それも虚しく 片手でイルミに奪われ、手の届かぬ頭上にまで軽々持ち上げられてしまった。