第24章 新婚旅行1日目
食事を済ませた後、2人はようやく指定先のホテルに入った。
そこはこの土地の中でも随一のホテルと称される宿泊先で 既にとっぷり落ちている夜は四方からのライトアップでとりどりに彩られていた。
予約されていた部屋は新婚旅行に相応しい広さがあるスイートルームだった。窓から見える夜景が一望出来る。
ホテルの中層階エリアには長い渡り通路があり、定感覚に並ぶ電光がきらめく光を放っている。ヤシのような木々が植えられる庭には野外に設置されたプールがあった。ムーディに落とされた照明の中で、水着姿の男女が額を寄せ合っている姿が見える。
オーシャンビューも素晴らしいものだった。
月明りが見守る海は情緒的に揺れている。
1日の疲れを吹き飛ばすには十分過ぎる景色ではある。始終不機嫌だったリネルだが、この時だけは声を明るくした。
「わ、すごいキレイ!」
「リネルの方がキレイだよ」
「は?!」
「なんちゃって」
「……」
わかりやすい冗談は少しも笑えなかった。
口説き文句がここまで下手で似合わない男も、珍しいのではないかと思う。
リネルは部屋の中へ足を戻した。
キングサイズのベッドが真ん中ほどに置かれている。
シルク地のシーツは大きなドレープを作り、磨かれた石の床にかかるほどだ。しかし生憎、それを愛でる余裕がない。
手にしていたバッグを無造作にベッドの上へ放ると、そのまま深く腰掛けた。
音のない部屋ではすぐに無言の空間がやってくる。
いつもいつも自分だけが“気まずい”と感じ、話題提供をするのも飽き飽きだった。
リネルはそのままベッドに仰向けに倒れた。イルミは背筋を伸ばしたまま、ベッドの縁に腰掛けてくる。
「またゴロゴロしてる」
「……いいじゃん。イルミもしたら?疲れたよね……」
「いい。」
これはコロンか何かなのか、えらくラグジュアリーな香りと絶妙なスプリングのベッドに包まれ リネルは眠るように瞳を細くする。
ここはホテル、目の前には見慣れぬ天井。
疲労でぼんやりする頭は 昨晩の酒に酔ってしまった時の脳みそと酷似する。
慣れない1日をこなすのに精一杯で 考えないようにしていた昨日の事が一気に脳裏に蘇ってしまう。クロロの姿が鮮明に思い出される中、リネルは小さな声で言った。