第24章 新婚旅行1日目
簡単な身支度を終えて家を出た。
ゾルディック家の私用車の後部座席にて、リネルは出掛けに手渡されたファイルを取り出した。パラパラそれをめくってみれば ガイドブックや宿泊用のカードがきっちり入れられているではないか。リネルはファイルを隣に座るイルミに見せて、話しかけた。
「行き先はグランドトラインだ……ここ、行ったことある?」
「ない」
「超リゾート地で新婚旅行のメッカだよね。パパとママの新婚旅行の場所なのかな?」
「さあね」
「にしてもどうやってあの短時間でこれだけの手配を済ませたんだろう……元々企画されてたのかなぁ」
「かもね」
イルミは明らかに投げやりだ。リネルは顔をきつくする。
「あのさ 前から思ってたんだけど……ちょっとは会話を続けようって気持ちや努力はないの?」
「してるだろ」
「もっとこう、掘り下げて広げるとか話題を提供するとかさ」
「逆に聞きたいけど、特に興味がない話をする意味は?」
「……こ、コミュニケーションだよ!」
「間に合ってる」
微塵もそうは思えないが。
かと言ってベタベタ構われすぎるのももちろん勘弁願いたい。リネルは溜息をつくと、手元のファイルに目を戻した。
「……切符とか航空券とか親切に入ってる。公共機関利用して行けって事みたいだね」
「なにそれ」
イルミはくるりと顔を回す。車を運転する使用人に顎先を向けて言った。
「行って。このまま現地まで」
「申し訳ありません。シルバ様のご命令ですのお送り出来るのはそこの駅まででございます」
「…………」
イルミは拗ねたように ふいと窓の外へ顔を向けてしまう。リネルは気になっていた事を聞いてみた。
「……イルミはさ」
「なに」
「電車とかバスとか、乗った事ある?」
「あるよ。一応ね」
「……そっか」
一応、とはどういう意味合いか。
イルミが混み合う電車の中にいるとしたら 想像しただけで合成写真みたいだ。人の多い空間で、長い脚をきちんとたたみ 小さくなって座席に座ることが果たして出来るのだろうか。
急に男児の母親の気持ちになった。この箱入りのぼんぼんを夢のリゾートアイランドまで引率せねばならないのかとの現実が見えると、一気に不安になってくる。
ファイルの後ろページには、ご丁寧なメモまで添えられていた。