第23章 出発準備
「あ、しいて言うならね。言っちゃった」
「なにを」
「シルバパパに。“私達、愛し合ってるワケじゃありません”て」
「やっぱり。余計なこと言って」
イルミはベッドに腰掛けてくる。イルミにしては珍しく、肩を落としている。
「急に親父から休暇を出された」
「へえー 良かったねー」
「“新婚旅行がてら、リネルと親睦を深めてこい”って」
「えっ!?」
新婚旅行だなんて唐突な。幸か不幸か、先程のシルバとの会話で 本日から急遽連休となった件を話したのが仇となったようだ。
「でも旅行って、急にどこに?私達2人で?……現実的じゃないよね」
「全て手配済みだって。別行動しないように」
「……なるほど、読まれてるワケね……」
シルバなりの親心なのだろうが、正直なところ ありがた迷惑な気遣いだ。リネルは苦笑いを浮かべた。
「シルバパパなりの結婚のプレゼントなんだろうね」
「リネルが余計なことを言わなければ わざわざこんな事しなくて済んだのに」
「……どうせバレてたもん。そして本当の事だし」
「上手く誤魔化すとかそういう機転はないの?」
イルミの言い分も分からなくもないが、リネルにとってはこちらの事情をわかって尚 気遣いをくれるシルバに対し嘘を通す方が心の痛い話だ。
リネルはベッドから降り、大きく伸びをした。
もはや逃げ場がないならば 楽しんだ方が勝ちだろう。
「腹をくくろっか、イルミ」
「なに?」
「普段働き詰めだし旅行なんていつぶりかわからないくらい!……相手がイルミっていうのがなんだか不思議なんだけど」
「え、本気で行くつもり?」
「うん。まあ新婚旅行と言うより親睦旅行ってカンジでさ、とりあえず行けばいいんでしょ?そんな重く考える事ないよ」
「…………」
「どうしたの?」
「そんなに簡単にはいかない気がする」
らしくなくごねているイルミは何やら1人で思慮を巡らせているご様子だ。
こうして2人はシルバからの命令とも言える 新婚旅行へ出掛けることになった。