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イチバンノタカラモノ。

第1章 デアイ、ハジマリ。


道場には、大勢の巨体の男が集まっている。しかし、ロキはそれに怯む事はない。アスガルドや、九つの国の中にこんな奴らよりももっと図体のでかい者はいたし、兄のソーに比べれば可愛いものだ。
主将とやらもまたガタイのよすぎる、顔も眉が太く、目を爛々と輝かせている若い男だ。
「はっはっは、兄ちゃん、あんたじゃ無理だよ」
いつの間にかロキの後ろに並んだ男が、ロキにそう言った。ロキはちらりとそちらを一瞥したが、すぐに興味を失くした。
「ここの主将は強いぞ。未だに誰も勝てていないんだからな。まぁ、十万円は俺が貰うけどな。俺、ボクシングジムで一番強いんだぜ?」
すると、あっという間にロキの番が回ってきた。ロキの前の挑戦者は、悔しさに顔を歪ませ、力なく道場から出て行く。
「ま、兄ちゃん頑張りな」
ロキはスっと主将に向かって歩き出した。
「……最後の最後まで無視されちゃったなぁ。あはは」

「外国人か……随分細身だな。制限時間は十分。さぁ、どこからでもかかってきな」
主将の男が身構える。ロキは手を後ろに組み、目を閉じたまま動かない。そうしてから、まもなく八分が経とうとしている。周りの者も、主将も、不思議な表情を浮かべ、首を傾げている。九分が経とうとしている時、ようやくロキが目を開けた。
「では、遠慮なく」
言うが早いか、ロキはいつの間にか主将の後ろに立っている。なにが起こったのかは分からないが、主将が急にがくりと倒れたので、見ていた者は驚いた。
「勝ったぞ。十万円を貰えるか?」
「は、はい……」
道場の管理人が、ロキに十万円を渡した。主将は息をしているし、ロキの体を調べたが、武器の類は持っていなかったからだ。
「兄ちゃん、あんた凄いなってやっぱり無視かぁ!!ははははは!!!」

ロキは十万円をポケットにしまうと、また街を歩いた。
もうすっかり日が暮れている。
今夜の寝床を確保しなければならない、と思っていたところで、見覚えのある影が人混みに紛れた。ロキは自然とそちらに足を向けていた。
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