• テキストサイズ

イチバンノタカラモノ。

第1章 デアイ、ハジマリ。


少しの間、沈黙--しかしそれはどこか穏やかな--が流れる。公園の木には桜が実っており、それはぽかぽかとした暖かい風に揺られている。
楓もロキも、その様をただ眺めていた。
「あの花はなんだ?」
ロキが口を開いた。
「桜。春になると咲くんだ。アメリカではあまり見かけないのかな」
楓がそう答えるが、ロキはそれに眉をひそめるだけだ。なにか気に障る事でも言ってしまったのかと、楓は少し不安になる。
ロキはふっと自嘲気味に微笑むと、静かに首を振った。
「アメリカ人などではない……私はアスガルド人だ」
今度は楓が眉をしかめる番だった。アスガルドなどと言う国がこの世界に存在しただろうか、などと思いを巡らせている。
そこで、ようやく楓はこの質問に思い至った。
「所で、あんたの名前は?」
「……ロキだ」

ロキ

その名前に、酷く聞き覚えがあった。それが何故だったか、今朝、あれ程の強い印象を受けたにも関わらず楓は忘れていた。
「お前の名は?」
「楓。春野 楓だよ」
「楓。日本人の名前は変わっているな」
「そうか?ロキって名前も結構変わってるぞ」
「楓の方が変だ」
「な……いや、ロキの方が変だ」
しばらく睨み合う二人に、ようやく微笑み合う瞬間が訪れた。
ロキが戸惑ってしまう程、ここは意外にも居心地が悪くない。いや、この女の存在がなんとなく、安心に似たものを与えてくれるような気がした。しかし、この時のロキは、それを認めたくなかったようで、飲み終わった空き缶を楓に渡すと、ベンチから立ち上がり、歩き始めた。
「おい。どこ行くんだよ?」
その質問には答えなかった。答えられなかった。
/ 39ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp