第1章 デアイ、ハジマリ。
「……え?」
目を二三回瞬くと、楓は恐る恐るその男に近づいた。耳を近づけると、静かな寝息が聞こえる。とりあえず生きている事に、安堵した。
「おーい」
「……ん……」
ロキは、心地のいい声で目を覚ました。横を向くと、端正な顔立ちをした若い女がこちらを見ている。朦朧とする意識の中で、朧げに自分に課せられた罰を思い返していた。
「おい、大丈夫か?」
楓がロキの肩に触れようとすると、その手は小気味よい音を立てて弾かれた。
「気安く触るな、人間」
ムッとする楓。どう見ても外国人のようだが、お前も人間ではないか、と言ってやりたくなる。しかし、頭のおかしい男なのだと思ったのと、学校の時間が迫っていたのとで、彼と関わる選択肢を消去した。
「悪かったよ。ここは私の家だ。私が帰るまでにはここから出て行ってくれよ」
そう言い残し、楓は学校に向かった。
ロキは途方に暮れていた。確かに自分の犯した大罪の代償としては、一番効果のあるものかもしれない。
気付けば先ほどの女の家の前で眠っていたのだ。
そしてその女からは出て行けと言われてしまった。それにしても、言葉が通じるのは、父の最後の情けというものなのだろうか。
「そんなもの、私にはいらない」
ロキはそう小さく呟くと、立ち上がり、とにかくこの国の事をもう少し知らねばならないと屈辱的ながらも歩き出した。
自分の顔立ち、ニューメキシコ州やニューヨークで見た人間の顔立ちとは、この国はかなりかけ離れていた。そう、地味だ。
先ほどの女といい、もちろん顔の整っている者も多くいるが、アメリカ人とは元々の作りが違うようだ。