第3章 コイノメバエ。
「聞いたか?春野に彼氏ができたって」
「おう。しかもめっちゃイケメンの外国人らしくて、既に一緒に住んでるらしいぞ」
などと、ヒソヒソ話しては、落ち込んでいる。いつか彼女を恋人にするのが、彼らの目標だったのだ。
「大地はその外国人見たんだろ?どんな奴だったんだよ」
「あー?知ーらね」
大地は昨日から元気がまるでなく、呆けたように机に肘をついて窓から外を眺めている。
彼の恋もまた、終わった。
その大地に、楓が近づく。大地は思わず緊張してしまった。
「大地、昨日はロキが悪かった。えっと、もう聞いてるかもしれないけど、私、ロキと付き合う事になったから」
「お、おう。俺も悪かった。……幸せになれよ」
「ありがとう」
楓の笑顔を見ると、「畜生」と呟かないではいられなかった。自分が後押しをしてしまったのかもしれないと考えるだけで、ムカムカしてくる。
「おい、昨日なにがあったんだよ」
「もう、放っておいて頂戴……」
「なんでオカマ口調なんだよ」
机に顔を伏せ、落ち込む大地を友人たちは不思議そうに見ているしかできなかった。
「ただいま」
「おかえり」
すっかり馴染んだ会話。しかし、楓はロキをどうしても意識してしまう。一方ロキは自分の気持ちと楓の気持ちは合致したという事から、前までの戸惑いは消えていた。余裕が生まれている。
「今日も疲れた……ん?」
ロキの腕の中に、見慣れない一匹の子猫が抱かれていた。
「この子どうしたんだよ?」
「今日買い物に行ったのだが、何故か私についてくるのだ。元の場所に戻してもついてくる。楓の了承を得てから家に入れようと思ったのだが、この炎天下だろう?ずっと家の前にいるので、中に入れてしまった。すまない」
「いや、いいけど。見事な白猫だなぁ」
ロキの手中にいる猫の喉を撫でてやると、子猫は喉をごろごろ鳴らし、「にゃあ」と可愛らしく鳴いた。その愛らしさに、楓とロキは思わず顔を綻ばせた。
「どうする?」
「んー。まぁ、家で飼ってもいいけど、主にロキが面倒を見る事になるぞ?」
「そう言ってくれると思って、猫に関する本を買ってきた」
「……用意周到ですこと」