第3章 コイノメバエ。
「んっ……!?」
乱暴に口づけをされた。
脳が痺れるような感覚。息の仕方すら忘れてしまう程、強烈な行為だった。
やっと、唇が離れる。もう何時間もそうしていたかのような錯覚さえ覚えた。
「ロキ……」
「もう無理だ。我慢が出来ない」
ロキ自身、何故このような事をしてしまったのか分からない。今まで感じた事のない感情だ。
ロキは今までその感情から目を背けていた。
兄であるソーが人間と恋に落ちた時、なんとも愚かしいと思っていたからだ。その自分も、人間に恋をしてしまった、と、認めたくはなかったが、その気持ちはもうとっくに認めざるを得ない程膨らんでいる。
「愛している、楓」
「……」
涙が一筋、流れた。悲しいからではない。嬉しさで涙を流すのは、初めてだ。楓も自分の気持ちと向き合おうとしていなかった。
「怖いんだ……」
「私がか?」
「違う!大事な人が出来るのが……怖いんだよ……」
涙が床に零れる。
そう、家族のように、ロキさえも失ったら。楓が恐れるのは「吉村」の存在ではない。心から愛する大事な人を失う事なのだ。
ロキはそれを聞くと、今度は他意なしに強く抱きしめた。
そして、今までにない程優しく、甘く、囁く。
「私は神だと言ったろう?お前が離れたいと言っても、お前の傍を離れたりはしない」
「うっ……くっ……」
嗚咽を漏らして泣く楓を、ロキはただただ優しく、壊れないよう大事に、抱きしめていた。
「楓の気持ちを、聞かせてはくれないか」
「……私も、ロキを……愛してる」
「……そうか」
その時のロキの微笑みは、今まで誰も見た事がないだろう程、優しいものだった。
そして、先ほどの乱暴なものとは打って変わって、穏やかな口づけを交わした。