第3章 コイノメバエ。
「さすが春野。やっぱいいよなぁ」
「だよなぁ。いい感じに胸が揺れて……」
大地が両隣の友人二人の頭を殴った。
「んだよ大地ー。お前だって好きなくせに」
「す、好きじゃねぇよ、別に。昔からの付き合いで仲がいいだけだ」
「お顔が赤いですよー」
友人はからかうように笑う。そこで、試合終了のホイッスルが鳴った。得点板を見ると、36対0。見事に楓の圧勝だった。しかも、楓は汗一つかいていない。その並外れた体力に、周りは驚くばかりである。
その日の昼休み、楓は決定的なミスをおかしてしまった。
「弁当忘れたぁぁ!!」
「購買行ってくれば?」
この時間の購買は、かなり混む。今行っても、まともな物は残っていないだろう。同様の理由で、学食も埋まっていると予想される。
意気消沈する楓を慰めるように、皆が弁当を少しずつ分け合う、という事になりつつあったのだが、そこで楓の携帯電話がメールを受信した。
ロキからだ。
「門の外にいる。早く来い」
それを読むやいなや、楓は立ち上がって校門まで向かった。
「ロキ!」
「弁当を忘れただろう。マヌケが」
「う、うるせぇ。……ありがと」
「なにがありがとうなのだ?」
「え?弁当届けてくれてありがとうって……」
「私はお前が弁当を忘れたという事実を伝えに来ただけだが」
「この暇人がぁ!役立たず!ハゲ!アホ!マヌケ!お腹すいた!」
「最後だけ自分の欲求だったぞ」
怒る楓の両手に、弁当箱が包まれた布を、そっと置く。
「冗談に決まっているだろう」
「……!ありがとうございますー」
完全にへそを曲げた楓は、弁当を受け取ると、ロキにべっと舌を出し、教室に戻ってしまう。その様子を見ていると、彼女の教室の窓から、こちらを見ている少年がいた。大地だ。ロキと大地はしばし睨み合った。