第3章 コイノメバエ。
「ろ、ロキは、恋人がいた事はあるのか?」
言ってから楓は後悔した。何故このタイミングでそんな質問をしてしまったのだろう。
「ない。そういう事に興味がなかった。楓は?」
「私もないなぁ」
お互い意外にも自然とそう口にする事が出来た。
そして楓はロキの「興味がなかった」という過去形での発言が酷く気になった。
ロキも、楓にそういった恋人の類がいない、過去にもいなかった事に確かな安堵を覚えてしまっていた。
「だが、お前に好意を寄せる異性は多数いるだろう」
「ははは。いないだろ」
「……いたら殺す」
「え?」
「なんでもない」
ロキの小さな独り言は、楓には幸い聞こえていなかった。
この日の体育の授業は、バスケットボールをした。運動神経の抜群な楓を、女子たちが取り合っている。
「楓は私たちのチームだってば!」
「いやいや、こっちだって!」
そう言い合っている。楓はなんとも言い難い気分だ。
「また、お前の取り合い?」
「大地。そうみたいだな」
「愛されてますねぇ」
「違うだろ」
大地と呼ばれた少年は、樋口大地と言う。楓とは小学校からの付き合いで、仲がいい。家も割と近いが、遊びに行ったり、来たりした事は一度もないし、彼にも裏の仕事の事は当然言っていない。家族が死んだ事も知らないだろう。
「お前のところにホームステイしてる人がいるんだって?」
「そうだよ」
「変な事されてねーか?」
「なんでみんなすぐそういう話に持っていくんだよ。なんにもねぇっての」
「ならいいけど」
「あーもう、お前ら、こうしよう。私対お前ら。まとめてかかってこい」
結局名案が生まれなかったので、そういう結果になった。
女子が試合をしている最中、男子は休憩だった。友人が、大地の隣に座る。