第1章 デアイ、ハジマリ。
処罰が決まった所で、ロキは服を着替えさせられた。人間が着るような、決してアスガルドでは用いられない服だ。ロキは自分の中の抵抗、嫌悪を抑えられそうになかった。
次に、母、ジョオドとの別れを済ませる。父オーディンには感謝の気持ちも親子としての愛もなくなっていたが、母にだけは、その想いを消せずにいた。ジョオドはロキを力強く抱きしめる。
「ロキ、あなたのした事はとても許せる事ではありません。しっかりと、罰を受ける事」
「……はい」
「私の可愛い息子、愛していますよ」
「私もです。母上」
ロキは涙で目が赤くなっている事を誰にも悟られぬよう、強く目を瞑り、強く母を抱きしめた。
「準備はいいか」
ヘイムダルが、低い声で問う。ここでまだだと言っても結局は同じ運命だ。
ロキは「あぁ」と短く返事をした。
そして、ロキは日本へ下る事となる。
楓は、その日、夢を見た。いや、見たというのは些か間違いかもしれない。
声を聞いたのだ。
その声は、重々しく、崇高なもの。
「ロキを、頼む」
その一言だけだったが、目覚めた時、妙に頭に残っていた。