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イチバンノタカラモノ。

第1章 デアイ、ハジマリ。


オーディンの溜息が漏れた。
アスガルドの玉座に座る彼は、大事な息子をそこから見下すような姿になっている。
その大事な息子は、兵士に押さえつけられながらも、悠然たる面持ちで、血の繋がらない父親を見上げた。
オーディンは、少し躊躇ったが、もう一度深い息を吐くと、重い口を開いた。
「ロキ、お前のした事は、大罪だ」
「私を殺すなら、どうぞご自由に」
ロキは挑戦的な目でオーディンを捉え、口には笑みさえも浮かべている。
「お前には、人間界へ下ってもらう」
それは、ロキには予想だにしていなかった罰だ。ロキは父の傍らにいる強靭な肉体の男を見やった。
「兄のように、人間と恋をしろとでも?」
兄、ソーは、以前ニューメキシコ州で出会ったジェーンという女と恋に落ちている。しかし、今は虹の橋を壊してしまった為、会えていない。その状況で、どうやって人間界に下れというのか、ロキはイマイチ理解が出来ない。
それを察したわけでもないだろうが、オーディンは告げる。
「我が国には、昔その道を封鎖した国がある。此度、その道を開き、再び封鎖させて貰う」
「……」
ロキは少々の焦燥に駆られた。封鎖されれば、その国を支配する事も、アスガルドに戻る事も出来ないだろう。
「お前は、ニホンに下るのだ」
「ニホン?」
「ニホンは、輝かしい歴史のある、素晴らしい国だそうだ。大昔から、人類に進化する前の祖先達が知恵を絞って助け合い、生きてきた。今は大分栄えているようだがな」
ロキは初めて聞く国の名前を、頭の中で反芻していた。兄であるソーも、初めて聞く名前に、眉根を寄せている。
「ですが、父上、ロキをそのニホンに下らせ、どうするのです?」
ソーの言葉だが、ロキもまさに同じ事を思っていた。やはり血は繋がらないが、兄弟、と言ったところか。
「全く未知の世界で、ヒトとして生活する」
「ですが、私には魔力があります」
「それは、私が最小限に抑える。全ての魔力を除く事は不可能だが、ニューヨークで起こしたような魔力はもう使えまい」
「つまり、私はただのヒトとなるのですね?」
「うむ」
重厚に頷く父に、ロキは舌打ちをしたくなった。
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