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イチバンノタカラモノ。

第2章 カコノキズ。


「すまない、ロキ。仕事が入った。行ってくる」
「私も行く」
「へ?」
ロキがそう言ったのは、初めての事だった。今までも一緒にいる時に仕事が入る事は多々あったが、ロキはいつも見送るだけだった。しかし、今回は違う。既に出かける準備さえ始めていた。
「ま、待て。お前が行っても……」
「私は神だぞ?父に魔力を最小限まで除かれたが、足手まといにはなるまい」
「そうだけど、危険だし」
「危険な事など幾度も経験している。こんな事、ただの茶番に過ぎない」
「でもダメだ。お前は目立ちすぎる」
「ならばこれならどうだ?」
そう言われると、楓は目を瞠った。目の前のロキが、先ほど携帯ショップで担当してくれた女性店員の姿に変わったのだ。
「お前の変装よりももっと高度な変装だ」
初めてまともな事で魔力を見たな、とまるで見当違いな事を思った楓だが、確かにこの幻覚は使える。そして、言っても聞かないロキに痺れを切らし、仕方なくついて行かせる事にした。
「東洋銀行……か」
近くのビルの屋上から件の銀行強盗が行われるという銀行を覗いている。まだ事件は起きていないらしい。

「いいか、いきなり変な真似はするなよ?まずは客として入る。ここの二階にトイレがあるから、私はそこに潜む。お前は捕らえられたフリをして、幻覚で依頼人の彼氏に成り済ましてもらう。そのお気に入りの携帯に指示を出すから、気づかれないように常時チェックする事。質問は?」
「その銀行強盗は殺してもいいのか?」
「構わない。でも、なるべく人質は傷つかない方法で頼む」
「心得た」
短い作戦会議が終わり、打ち合わせ通り楓は入店するやいなや、二階のトイレに駆け込んだ。
その数分後、下で銃声がした。始まったようだ。
すると、バタバタとトイレに入ってくる音もした。身を潜めながら、様子を探る。
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