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イチバンノタカラモノ。

第2章 カコノキズ。


「楓」
「なんだ?」
ロキの長く、細い指が、楓の目元に触れた。自分では気付かなかったが、語っている内に涙を流していたらしい。ロキはそれを拭うと、あやすように楓を腕の中に収めた。
初めて男性に抱きしめられた楓は、驚きや恥ずかしさなどが混ざった不思議な感覚を覚えたが、それよりも大きな安心を感じた。ロキの匂いや、温もりが彼女を包み込んだ。
しばらくの間、楓はロキの優しさに甘え、身を預けた。
「落ち着いたか?」
ロキの声は飽くまで優しい。初めて会った時の人を拒絶するような目も、いつしか親しみが込められている。
楓は急に恥ずかしくなり、バッとロキから離れ、顔を背けた。
「だ、大丈夫だ。すまない」
ロキは頭を撫でてくる。この男からこんな行動が出てくるのに、楓は戸惑っていた。
「ところで、楓」
「なんだよ」
「携帯電話が欲しい」
「……」
「今優しくしてやったろう?」
ロキはいつもの不敵な笑みに戻っていた。わなわなと楓は震える。
「そういう事か畜生!」
すぱーんといい音を立て、楓がロキの頭を思い切り叩いた。

「で?携帯電話が欲しいって、なんで」
「知人や友人はいないが、楓に用がある時に不便だと思ったのだ」
「まぁ、確かにまた学校に来られても迷惑だしなぁ……」
しばらく楓は逡巡し、
「分かった。明日買いに行こう」
と提案するに至ったのだった。

翌日、二人は街の携帯ショップに来ていた。楓も使っている会社のショップなので、電話代が無料になる。それと、初めて携帯電話を持つものでも簡単に扱える、というのがこの会社の携帯電話の売りだ。
展示してある携帯電話を逐一手に取りながら、軽く操作をする、というのを繰り返し、やっとロキの気に入った物が決まった。
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