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イチバンノタカラモノ。

第2章 カコノキズ。


ロキの部屋は、二階の一室を借りている。楓はリビングのある一階に自室を構え、そこで生活している。決して広くはないが――それはロキの価値観であるが――、落ち着く、いい部屋だ。ロキは今最低限の金を楓から与えられ、それで本を買ったりしている。アスガルドの本とは違い、挿絵が動いたりはしない。内容も、殆どが作り話だ。その中でもロキが興味を持ったのは、日本の歴史に関する本だ。今読んでいるのは、織田信長についてである。
「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス……いい考えだ」
やはりロキは黒い。
「ただいまー」
「おかえり」
「ったく今日はひどい目に遭った」
「何かあったのか?」
「元はといえばお前のせいなんだけどな」
「?」
ロキはジト目で見てくる楓に首を傾げた。
「買い物に行くか?」
「いや、今日はもう買ってきた。カレーにするぞー」
「カレー?」
ロキ、カレー初体験である。


「美味い。今までのどれよりも美味い」
ロキはカレーが大変お気に召したらしく、バクバクと、しかしきちんと行儀よく口に運んでいる。
「一番手抜きのカレーが一番美味しいって言われるのもなぁ」
そう楓は苦笑しているが、ロキの姿を見て、喜ばしい気持ちももちろんある。ロキはその後二杯おかわりをし、ご機嫌だった。
食後のコーヒーを飲みながら、まったりとした時を過ごしている。ここに来てからそろそろ一ヶ月が経つ。楓とロキの関係も落ち着きを得てきた。
そろそろ頃合か、ロキはそう思い、この一ヶ月ずっと心に秘めてきた楓への質問をぶつけた。
「楓」
「ん?」
「お前の両親は、どうしたのだ」
「……」
楓は楓で、遂にこの質問が来たか、という心境であった。いや、予想よりも遅かった。
コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置くと、ゆっくり語り始めた。
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