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イチバンノタカラモノ。

第2章 カコノキズ。


「いいか、ロキ。もう学校には来るなよ?」
「学校、というのは興味深い。今度ゆっくりと見て回りたいものだ」
「人のお話聞いてますか?」
そんな会話を繰り広げつつも、スーパーに到着する。
「夕飯、何食べたい?」
「箸を使わない物」
「お前この三日間同じ注文しかしてねぇからな」
魚が安かったので、この日の夕食は、箸が重要な煮物と魚の干物になった。ショッピングバッグに買った物を詰めながら、ぶつぶつと文句を言っているロキ。それを見て溜息をつきながらも、少し微笑ましい気持ちで見ている楓。
この二人の相性はなかなか悪いものではないのかもしれない。

「ロキー、そこの塩取ってくれ」
食事は基本的に楓が作っているが、ロキにも手伝わせている。いつかここから出て行く時、何も出来ないと大変だろうという、彼女なりの気遣いだ。根っからのおぼっちゃま体質のロキには、それもまた多少の不満があるようだが、「働かざるもの食うべからず」という楓の言いつけを守っている。
煮物に味が染みてきた頃、ロキは食器をテーブルに並べていた。和食であるのに、レストランのように豪華な食卓となる。

この一週間は、楓はロキを自由にさせていた。日本どころか地球にすら慣れていないロキに初めからあれをしろこれをしろというのはあまりに酷に思えたからだ。
「今日は何かあったか?」
干物を箸で器用に剥がしながら、楓が聞いた。
「あぁ。今日はスカイツリーとやらを見てきた」
観光客か!とツッコミたくなったが、まぁある意味大して変わらないので、楓はそれを口にしなかった。どうだったか、と聞くと、ロキは少し偉そうな顔をし、「アスガルドの王宮に比べれば大した事はない」と尊大ぶって鼻でせせら笑った。
「所で、楓」
「ん?」
「今日は雨が降りそうだったから洗濯物を取り込んでおいた」
随分……いや、もうこれ以上言うのはやめておこう。
「随分所帯じみたアスガルド人だな」
言っちゃったよ、この子。
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