第8章 朝ご飯の卵焼き
アンはおにぎりを二つ握って、たくあんと一緒に皿の上に盛ると、「卵はどうする?」とローに聞いた。
不思議そうな顔した彼に聞き直す。
「目玉焼きか、卵焼きならすぐにできるけど?いらない?」
「いるよ。…卵焼き」
「甘いの?甘くないの?」
(そんな選択肢があるのか?)
今まで甘い方しか食べたことがなかったが、そういえばエースが甘くないのがどうとか言っていた気がする。
「甘くない方…」
単純に食べたことがないから、試してみたかった。それにしても出来立てを食べれるなんて贅沢な気がする。
アンは手際がよかった。すぐに卵焼きは出来上がって、おにぎりと一緒にローの前に並べられる。ほかほかの卵焼きは湯気が立って美味しそうだ。
「簡単なものしかないけど、どうぞ」
「…いただきます」
卵焼きを真っ先に口に運ぶ。いつもの弁当のとは違う味わいの卵焼きは当然のように美味くて、少し感動した。
甘いのも捨てがたいが、こっちの方が好きかもしれない。
顔を上げるとアンも食事中だった。
ふと、以前に手が綺麗だと思ったことを思い出す。
彼女のひとつひとつの仕草が滑らかで品があり、見ていて心を揺さぶられる。
そういえばあのガサツそうな弟でさえ、箸の持ち方はきちんとしているし、食事の前後には手を合わせる。姉の教育の賜物だろう。
黙々と二人で朝ご飯を食べる。
無理に会話しなくとも穏やかに時間が流れて、心地良かった。