第8章 朝ご飯の卵焼き
目が覚めると、隣に赤い髪の彼女が眠っていた。
(………アン)
瞼にキスを落とすと、アンはゆっくり目を開けてローに微笑んだ。
「おはよう、ロー」
すごく幸せな気分になって、起き上がろうとした彼女を抱きしめながらベッドに押し戻した。
「もう起きないと」
「もうちょっと、いいだろ」
目覚めたら隣で寝ていて、自分にだけ笑ってくれる。やっとこんな関係になれたのだから。
本当に、やっと。
バタバタと、遠くで誰かが走り回るような足音が聞こえる。
腕の中にいた彼女はもう一度、「起きなきゃ」と言って身体を起こす。
「ルフィがお腹空かせちゃうわ。朝ご飯作らなくちゃ」
「お前、おれと弟とどっちが大事なんだよ」
アンは呆れたように笑う。
「そんなの、決まってるじゃないーーー」
「ねーちゃん!ねーちゃん!!体操服がどこにもねぇぞ!」
「もう!昨日のうちにちゃんと準備しときなさいって、いつも言ってるでしょ!!」
(…朝っぱらから何騒いでやがる、この姉弟…。
……ここはどこだ?)
二度瞬きをして、昨日のことを思い出した。
ゾロが出した酒を飲んで睡魔に誘われるがまま、眠ってしまったのを。
一生の不覚だ。
「ルフィ、早くしてよー!今日遅刻したら、スモーカー先生に逆立ちで廊下に立たせるって言われてるじゃない」
「そりゃあ、いいトレーニングになりそうだ」
「よし!遅れて行こう!」
「あんた達、バカじゃないの!?」
玄関ドアを開けたまま、今にも出発しようとゾロとナミが待っている。
「ほらお弁当、ちゃんと持って。気をつけてね」
「おー、いってきます」
そんなやり取りの間もアンはルフィの寝癖を直そうと指で撫でたり、制服の襟を直したりと世話を焼く。
(おれのことなんかより、弟の方がそりゃ大事だよな…)
そんなの考えるまでもない。