第2章 彼女の一日と弟の放課後
全員そろって朝食を終えれば、慌ただしく高校生達は登校する。食べ盛りの弟達に三段の重箱を毎朝持たせるので、食費だけはなかなか節約できない。
嵐が去ったような部屋を眺めてから、やれやれと食後の片付けをしているとスマートフォンの着信音が鳴った。
「もしもし、おじいちゃん?うん、元気」
沖縄に住む祖父、ガープからは3日に1回は電話が掛かってくる。親がいない姉弟を心配してのことだ。
『ルフィはちゃんと学校に行っとるか?遊んでばかりじゃなかろうな』
「ルフィ、勉強苦手だからね〜。でもちゃんと空手は行ってるから大丈夫だよ」
小学生から空手を習うルフィはもう師範ほどの腕前らしい。
『お前も無理するんじゃないぞ。生活費ぐらいじいちゃんが何とかしてやるぞい』
「心配しないで。わたしもう26だし。食べてくぐらいなんとでもなるから」
ガープが心配しないように、明るい声で話を返す。
正直、厳しい月もあるのだが弟ぐらい養わなくちゃと思う。
今月からアンはサクラ総合医療センター内にあるコンビニの副店長を任されている。
アンはこれまでいろいろなバイトを掛け持ちして、生活費を稼いできた。
先月、家主のおつるから仕事の話を持ちかけられたことに端を発する。
彼女はガープの知り合いでもあり、昔から借家に住む姉弟を気にかけてくれていた。畑で育った野菜を分けてもらったり、時には夕食をごちそうになったり。
おつるは定年後、都内で何軒かコンビニ経営をしている。そのうちの一軒、病院内のコンビニが今月リニューアルオープンした。
思いがけず副店長の話をされて、そこまでお世話にはなれないと固辞しようとしたが、店長がダラけてて信用ならないから何とか頼むと頭を下げられた。
正直、正社員として雇ってもらえるのは心が揺れた。一家の大黒柱としてこのままバイトでは心許無い。
アンはおつるの厚意に甘えることにしたのだ。