第2章 彼女の一日と弟の放課後
♦︎10:30 出勤
病院まではガープから譲り受けた愛車、ハーレーダビッドソンで15分ほどの距離にある。
バイク置き場はさすがに占領してしまうので、職員駐車場のいつもの角に止める。
いい車がいっぱい止まっているけど、一番高いのはいつも隣に止めている、このフェラーリだろうな。院長とかえらい人が乗ってるのかな。
手入れがされていて、ピカピカでまだ新しそうだ。
あまりジロジロ見れないので、視線を外して職場へ向かう。
コンビニに着くと、裏方でジャケットだけ脱いで仕事着のポロシャツを着る。
「お疲れ様です、店長」
「おお、アンか。お疲れ」
客がまだ少ないからか、店長のクザンはレジの近くの椅子に腰掛け、競馬新聞を読んでいた。
"だらけきった経営"
そう書いた紙が客から見えない位置に貼られているがなんて経営方針だろう。そりゃおつるさんに信用されないわ。
「店長、わたし在庫確認して補充してきますね」
「よろしくー、伝票その辺にあるから」
クザンは新聞に目を落としたまま、右手を上げる。
意外とコンビニは重労働だが、クザンは男女差別はしないらしく重い物も平気で持たされる。
病院内のコンビニだけあって、患者や見舞客、医療スタッフまでいろいろな人が訪れる。よく来る職員の名前と顔はようやく一致するようになり、顔見知りも増えてきた。
求められる物も病院ならではの物も多く、今日も接客と物品リストとにらめっこしながら忙しく過ごす。物品の管理は副店長のアンの仕事になった。
甲斐性なしの男には任せられないとはオーナーおつるの意向だ。
12時を過ぎ、美人麻酔科医がコンビニを訪れた。
「お疲れー、アン。お弁当取りに来たわよ」
「レイジュ!ちょっと待ってて」
裏に行き、すぐに弁当を持ってレイジュの所に戻る。
「毎日ありがとねー」
「こちらこそ、まいどあり」
500円を受け取り、軽く手を振って別れる。
実はレイジュは中学時代の同級生。偶然この病院で再会したのだ。