第7章 弟の進路
ペローナの部屋とは美術準備室のことだった。
油絵や彫刻画に混じって、棚の上に彼女いわくラブリー(?)なぬいぐるみが置いてある。
ぬるめのココアとクッキーをテーブルの上に置くと、彼女はハートのクッションを抱いて椅子に座った。
「今年の2年F組は特に教師達の手を焼いてるぞ。なんせ最悪の世代って呼ばれてるぐらいだからな」
アンはやっぱりとうなだれた。
ナミから聞いた話では授業中にラップを奏で出したり、占いを始めたり、お経を唱え出したりする問題児達の集まりらしい。
そんな中でも台風の目として学校をかき回しているのが弟ルフィとゾロだ。
「スモーカー先生、きっと頭抱えてるよね。申し訳ないなぁ…」
「私は美術専任だから関係ないけど、スモーカーは自分で担任を希望したらしいぞ。意外と楽しんでるかもな」
スモーカーはアンとペローナの高3の時の担任だった。色々恩があるのに、仇で返しているようで申し訳ない。
アンはココアをすする。甘い。
「それより、お前!病院で働いてるんだろ?あいつに会ってねぇよな?」
「あいつって、誰?」
この部屋には他には誰もいないのに、ペローナはアンの耳元で囁いた。彼の名前を。
「……医者になったのは風の噂で聞いてるよ」
「今まで県外にいたけど最近都内の病院で働き出したって。何か困ったら、私に言うんだぞ!」
「もう8年も前なのに、お互い何もないよ」
そう。未練も後悔も、あるはずがない。
それなのに、今まで甘かったココアが急に苦く感じたのは何故だろう。