第6章 研修医の診断
意識してないはずがなかった。
男といるところを見たらムシャクシャしたり、不安になったり。
笑った顔が見たいと思ったり、プライベートでも関わりを持ちたいと願ったり。
すべてはあの女に心を奪われているせいだ。
今までなら欲しいものはそれなりに努力すれば容易く手に入ったのに。
昔から付き合う相手には困らなかったし、第一志望の医学部に入学するのも普通に勉強すればストレートで入れた。
そこで親友と呼べるコラソンに出会えたし、国家試験に合格して今の職場で仕事しているのだって、思い描いた通りだ。
だからローには今までの人生で挫折した経験がない。
だか、それもこれまでの話しだ。
勝手に振り回されているアンを口説き落とす自信はなくて心が折れそうだった。全然こっちを見ようともしない。
まるで彼女は高嶺の花のようだと思う。
遠くから見ているだけで全く手が届かない。
「せんせーって、アンの連絡先も知らねぇんだろ。あいつとっつきにくいもん」
従兄弟にもそう言わしめるあの女は筋金入りなんだろう。
ゴソゴソとサボはスマホを取り出して、ある電話番号を表示させる。
「これアンの番号。ちなみに返信は遅いよ」
「……勝手にいいのか?」
「だって正面切って聞いても教えなさそうじゃん」
その通りだった。あの高嶺の花は仮に聞いても「それ必要ですか?」とか言われて結局教えてくれそうにない。
「今度は焼肉奢ってな」
サボはにやにや笑っている。何故自分に協力してくれるのか本心はわからない。
ただ、アン攻略が一歩近づいて焼肉でも寿司でも何でも奢ってやろうと心に決めた。