第6章 研修医の診断
仮眠室で寝ていたローは、早朝のスマホの着信音で目を覚ました。差出人はレイジュ。
『今日はアンのお弁当はお休みです』
まさかの悲報に、ローのやる気は地の底まで落ちた。
(おれが嫌いとかって言ったからか…?もう弁当作ってくれねぇとか…)
絶対に嫌だった。あの卵焼きが二度と食べれないとかありえない。
気乗りしないまま、ローは仮眠室を出ると病棟へ向かう。回診を終えて外来へ行き、珍しく早めに診療を終えた。
弁当がないのにコンビニに行く気にはなれなかった。他のものを食べる気にもなれず、自販機でコーヒーを買って昼飯の代わりにする。
オペまではまだ時間があって、他の医者から頼まれた入院患者の往診へ向かう。
行き先は消化器外科病棟。正直気が進まない。
患者の病室を探して、四人部屋の名前が入ったプレートを眺める。
(………エース…)
往診する患者の隣に配置されたプレートを睨みつける。
どんな偶然だ。もう顔も見たくないのに。
部屋に入ると聞き慣れたあの声が聞こえる。ここで聞きたくなんかなかったのに。
「エース、歯ブラシとか使いそうな物置いとくよ。着替えは今日サボが持って来てくれるって。
お昼からご飯出るんだって?よかったじゃない」
「でもまだ傷痛ぇもん…。アンお前手術中ずっといてくれたのか?」
「いなきゃいけないって言われたからいたよ。おかげで寝不足よ。ルフィ達のお弁当も作れなかったし」
カーテン越しにその会話を聞いて、腹の奥でくすぶっていた怒りは一気に頂点へ達した。
何なんだ。何であの男の世話なんかしてんだ。
家にも泊めるし、これじゃ恋人というよりまるで夫婦みたいじゃねぇか。
イチャイチャしやがって。
おれの気持ち弄んで何が楽しいんだ。
(それに今日の弁当がないのはこいつのせい……!?)
殺意すら湧いてきて、仕事中だというのに平常心を保てない。
ローは往診患者の対応を後回しにして病棟を後にした。