第5章 好きなわけない
その店は路地裏に一本入った所にあった。
さっきの店とは全く雰囲気の違う店。赤提灯がぶら下がる奥はほどよく繁盛しているようだ。
よくある居酒屋だろうが、一人で飲み直すにはちょうどよかった。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
店員に座敷の一人掛けのテーブルに案内される。店の中は酔っ払った客が何人もいるのか、かなり賑やかだった。
「で、台風なのに海を見に行くって聞かなくて!そしたらルフィの奴、海に流されてさー!」
「アレはひどかったよなぁ。じじいに怒られておれ達三人とも海の中に落とされたんだぜ!台風なのに!」
「全員助かったから、笑い話で話せるけどねー!」
(……………あの女……)
目の前のテーブルにはアンがいた。
背を向けているがさっきの黒髪の男もいて、テーブルにはジョッキやグラスでいっぱいになっている。
全員がほろ酔いでそれは盛り上がっていた。
「あー、もう笑い過ぎてお腹痛い……。エース、変な話ばっかりしないでくれる?」
(ふざけんなよ。おれの前では作り笑いしかしないくせに…)
ひとしきり笑い終えると、アンはエースの肩に寄りかかり頭を預けた。
「笑い過ぎて疲れた……」
エースの方はそれを嫌がるでもなく、片手でアンの頭をポンポンと撫でた。
それを見た瞬間、自分の中でパチンと何かが弾けた。
(おれのモンに何してやがる………!!)
「うわぁぁぁ!今、殺気感じた!」
身に危険を感じたエースは辺りを激しく見回して、寄りかかっていたアンは不満そうに身体を起こす。
「何言ってんの?エース…」
「おれ、今夜殺られるかも……」