第5章 好きなわけない
アンとエースは馴染みの居酒屋に入った。
どことなく懐かしい雰囲気が漂う店は安くて美味い店として、知る人ぞ知る名店だ。
だが個室もなければおしゃれともかけ離れていて、まずデートや合コンには向かない。
「アンちゃん、エースくん!こっちこっち!」
サボと彼女のコアラは店の中で待っていた。二人は大学時代から付き合っていてすでに同棲中。
今までにも何度かご飯を食べに行ったりして、アンとも仲良しだ。
店員に案内され靴を脱いで、座敷の席に上がった。サボ達と同じテーブルにつく。
「よっ!久しぶり」
コアラの隣でサボはニカッと笑った。
容姿は似ていないがエースとサボは二卵性双生児。アンと同級生の従兄弟だ。
「おねーさん、ビール二つ。
二人とも元気だった?」
「うん!サボくんってば、また火傷して帰ったの。心配してる身にもなってほしいわ」
「気をつけてるし、今回は跡も残ってねぇだろ」
サボの額には火傷の跡がある。髪で隠していれば目立たないが、まだ消防士になりたてのときにできた傷だ。
仕事とはいえ、コアラの心配は想像に難くない。
「本当に気をつけてよ。コアラちゃんに心配かけ過ぎちゃダメ」
「あー、はいはい。わかってるよ」
サボが女子二人に睨まれて居場所なさげに呟いたとき、ちょうどビールが届いた。
「よし、とりあえず乾杯しようぜ!」
「「カンパーイ!!」」