第1章 彼の一日
外来が始まる5分前にカンファレンスは終了した。
1階の外来ロビーは既にたくさんの人でごった返している。
いつもの光景を横目に、ローは診療室の椅子に座った。
「おはよう、キャプテン!…じゃなくて、トラファルガー先生」
「ああ、ベポ。今日もよろしく」
診療室に一匹のシロクマが入ってきた。外来クラークのベポだ。
実はベポは幼なじみで10歳で外国に引っ越すまで同じ小学校に通っていた。偶然この病院で再会した後もローのことをキャプテンと呼ぶ。
彼はローの横に座り、パソコンを開いて診療のサポートをしてくれる。
♦︎9:00 外来診療開始
ローの外来を訪れるのは他の病院で手術が困難と紹介された患者や、彼の腕を聞き付けて何ヶ月も前から予約していた患者達だ。
検査の後、丁寧に手術の説明を行い日程を調整する。
ローが独身であると知るや否や見合い写真を持ってくる迷惑な患者もいるが、丁重に断っている。
むしろ自分よりコラさんに持っていって欲しい。
♦︎12:30 外来診療終了・昼食
すべての診療を終えたが、ひと息つく暇はない。
常備している栄養補助食品でカロリーを補い急いでオペ室に向かう。
オペ室では補助役の医師、レイジュ、看護師が待機していた。
「キャプテン、今日もよろしくお願いします。おれ、器械出し担当なんで」
念入りに手洗いしていると、ペンギンが話しかけてきた。
ペンギンもベポと同じく、幼なじみで偶然ここで再会した。ついでにちゃんとシャチもいる。
「キャプテン、お手柔らかに!おれ、外回りなんで!」
「…またお前らか」
「またまた、嬉しいくせに」
「キャプテンがおれ達指名してくれてるって知ってるんすよ」
(……そりゃ、怒鳴りやすいからな…)
オペ室の看護師長になるべくペンギンかシャチをオペにつかせるよう言っている。理由は技術どうこうより怒鳴りやすいからだ。
ただでさえオペ中は気が立っているのに、下手に女の看護師を怒鳴って泣かせでもしたら、後で看護部長にどやされる。
ペンギンとシャチならそんな気を使わなくても済むから楽だとは、本人達には言うわけがない。
♦︎13:00 オペ1例目開始