第1章 彼の一日
医局に着くとロッカールームでダークネイビーのスクラブに着替える。
自分の机のタブレットを操作して、ホットコーヒーを飲みながら今日の予定を確かめる。
8時半から循環器科合同カンファレンス。9時から外来。13時からオペが3件。
毎日、大体終業は21時前後だ。
コーヒーを飲み終わると、ロシナンテに「じゃあな」と挨拶して病棟へ向かう。担当患者に変わりがないか確かめるためだ。
♦︎7:50 回診
病棟に行くと看護師から状態の報告を受ける。
患者を診て回り、今日オペの患者の体調を確かめる。術後経過良好な患者には退院許可を出した。
その足でカンファレンスルームへ向かい、合同カンファレンスに参加する。
♦︎8:30 循環器科合同カンファレンス
患者は生後6ヶ月の女児。先天性心疾患で県外から転院してきた。
患者紹介を聞いた後、治療方針を話し合う。
「オペが適応だと思われますが、外科の先生方のご意見を…」
「まだオペするにはリスクが高すぎる。1歳になるまで待つべきでは?」
ローも先輩外科医の意見を聞きながら心の中で相槌を打つ。闇雲にオペすればいいってもんじゃない。それに小児ならより慎重になるべきだ。
「麻酔科医としてはオペするなら麻酔時間は2時間が限度だと思います。それ以上はハイリスクです」
隣に座った麻酔科医レイジュが口を挟む。
「…2時間…」
レイジュや周囲の人間の視線がローに突き刺さる。
「トラファルガー先生なら…、2時間でも…」
ローはハァとため息を落とす。
短時間で的確なオペ。病院内で最も優れたオペができるというのがローの揺るぎない評価だ。
「まだ術前検査の所見が揃ってないようなので、なんともお答えできません」
「オペ室なら来週火曜日の午前中なら空いてるわよ」
「おい、レイジュ。だから、まだやるとは言ってねぇ」
「では、検査の結果が出揃えば判断できるな?オペ室を仮押さえしておけ。ご家族は最良の治療を望んでおられる。頼むぞ、トラファルガー先生」
端の方でひっそりドルトンが参加していたらしい。副院長の言葉に抵抗などできないまま、ローはまたため息を吐いた。